ラベルにたった1つの言葉を足しただけで売上げを伸ばした伝説のキャンペーン
昨年9月、日本を代表する広告賞、ACC CM FESTIVALの2014年の受賞作が発表されたのはまだ記憶に新しい。
テレビCM部門のグランプリは、小栗旬が桃太郎を演ずる「ペプシNEX ZERO」。あのTUGBOATの企画で、まるで映画の予告編を思わせる世界観のCMだった。鬼に挑むコピー「自分より強いヤツを倒せ。」が、暗に王者コカ・コーラに挑むペプシを匂わせる演出になっているのは承知の通り。クオリティーも高く、グランプリに相応しい作品だったと思う。
しかし、である。
同CMでお客が急激にペプシを選ぶようになったかと言うと、当然ながらそれは別の話。現代広告の父、デイヴィッド・オグルヴィの言葉を借りれば、「ある製品の販売を増大させるベストの方法は、その製品を改良することだ」–つまり、いくらCMが魅力的でも、商品自体に変化がなければ、お客はなかなか手にとらないってこと。
今のところ、ペプシが先のCM効果で爆発的に売上げを伸ばしたという話は聞こえてこない。
一方、そんなペプシがライバルと位置付ける王者コカ・コーラ。かのブランドが世界中で展開する「Share a Coke」なる秀逸なキャンペーンがある。
その発想自体はとてもシンプルだ。コカ・コーラのボトルのラベルに、人の名前を入れる–それだけ。
最初にキャンペーンが行われたのは2012年のオーストラリアだった。同国のポピュラーな名前トップ150をボトルに記載し、屋外広告やSNSで告知したところ、わずか3カ月で若年層の消費が7%も増加したという。そして、同年のカンヌライオンズのゴールドも受賞した。
その好結果を受けて、同キャンペーンはその後、世界中で展開される。日本でも昨年4月、250種類以上のポピュラーな名前で行われたのを覚えている人も多いだろう。聞くところによると、約1カ月で1億本以上を売り上げる効果があったとか。
そして同年夏、キャンペーンは満を持して本拠地アメリカに上陸し、なんと長期低落傾向にあった同国のコカ・コーラの売上げを11年ぶりに増加に転じさせたという。
いかがです?
ラベルにたった1つの言葉を足しただけで、コカ・コーラの売上げを飛躍的に伸ばした伝説のキャンペーン。
その勝因は、それまで自分が飲むために買っていたコカ・コーラを、“恋人や友人のために買う”という新たな需要形態を生み出したからである。思いを寄せる彼のネーム入りボトルを、コンビニを何軒も梯子して手に入れ、告白代わりに渡す–という新たな消費シーンを生み出したのだ。
自分に照らしてみれば分かるけど、人は元来、贈りものが好き。
ぶっちゃけ、自分のための買い物よりも、誕生日や何かのお祝いで、誰か大切な人のための買い物をするほうが楽しかったりする。
前述のオグルヴィの言葉を借りれば、同キャンペーンはネーム入りボトルで商品自体を魅力的に変えたのである。
そう、これが大きなアイデア。
ディーター・ラムスが言うところの「グッド・デザインは可能な限りデザインをしない」の考えにも通ずる、シンプルで美しいアイデアである。
そして人々は、そんなシンプルなアイデアに接した時——まさに買う5秒前——背中をドンッと押されるのだ。
イラスト 高田真弓
これ何で買ったんだろ?がスルスル分かる本 『買う5秒前』(草場滋著)はこちら